山河は消えてしまったが・・・

71を目前にして60年ぶり、小学校の同窓会に初めて出席した。

この地は疎開地であった。20余名の老人たちが参集したが、疎開組は3人。あとは農家組。

ひとりとして名指しできる者おらず、幹事に訪ねまくった。

どの顔も姿も立派な? 老人であった。疎開組のIを介されたとき、生きてこられた現実を目の当たりにした気分になってしまった。

彼の兄に10歳の時、命を助けられたからだ。

用水池はかっこうのプールだった。ここで溺死寸前に救われた記憶が、故障した公園の噴水のように一気に噴きだした。当人は知らない。説明をした。兄は物故したとの由。Iを抱擁し感謝の念を伝えた。爺さん二人が抱き合う姿など美しくはない。

なのに拍手が湧いた。Iの目に光るものがあった。数人の婆さんも泣いた。

刻まれた一本いっぽんの皺が頼もしかった。

すでにふるさとは変容し、微塵も面影はない。

喧嘩で負けて泣きながら帰った過去の風景が、くっきりと思い出された。